第5章

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「きゃぁ!!」 ……また転んだ。 賑わうゲレンデの隅で、私は社長と奥さんからレッスンを受けていた。 何でもない斜面が、絶壁に見える。 滑る、という行為がこんなにも怖いなんて… 「瑞穂ちゃん、内股よ。かかとを開いて。」 奥さんが手本を見せてくれる。 「はい!!もう1回やります!!」 私は自分を奮い立たせて、蟹歩きで斜面を上がる。 みんなが声を掛けて通り過ぎていく。 私もみんなみたいに颯爽と滑りたい! …でも… 現実は厳しい。 腰が引けて、転ぶ。 大きな影が私の横で、シャッと音を立てて止まった。 見上げると…… 「隆也さん……」 「………」 隆也さんは無表情で私をじっと見下ろしている。 「あら、隆也くん。瑞穂ちゃん頑張ってるわよ。」 「みたいですね……社長、奥さんと滑ってくれば?彼女は俺が見てますから。」 「あ!私なら一人で大丈夫ですから!!」 「……どこに行くか制御も出来ないくせに。誰かにぶつかったらどうするんだ…意地っ張り。」 隆也さんが冷たく言い放つ。私は口を尖らせた。 「あら!!ホント!?じゃあお願い!!瑞穂ちゃん、ちょっと行ってきていい?久しぶりにどんな感じか試してみたいの。」 「どうぞどうぞ!!せっかく来たんですから存分に滑って来て下さい!!私、迷惑掛けちゃって…」 「やあね瑞穂ちゃんたら!!そんな事言わないの!!誰でも最初はそうなんだから!!……隆也くんと練習しててね。」 「はい。行ってらっしゃい。」 社長と奥さんが微笑みあいながらリフトに向かって滑って行く。 はあ~、いいなぁ…私もあんな夫婦になりたいな………誰と?……うぅ…まずは相手を探さないと…… 「…い……おい!!…」 「えっ?」 「何ボケッとしてる!?サッサと練習!!」 「隆也さんコワイ…」 「意地ばっかり張るくせに。」 「……イジワル…」 「滑ってみろ。」 私はソロソロと滑り出し…転ぶ。 隆也さんはサッと私の横に立った。 ……立ち上がるのに手は貸してくれないけど… 「怖がるな。足の裏の内側で踏ん張るんだよ。」 「……はい。」 本当はもう、スキーなんてイヤだったけど、このまま帰る訳にはいかない。 私は唇を噛んで、蟹歩きで斜面を上る。 負けない!!寂しくても、辛くても、自分で選んで来たのだから!!
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