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リフトが終わる。私はまた、ド緊張で隆也さんに続いた。
上から見ると、恐怖感で一杯になる。
「心配いらない。お前ならできる。片足を踏ん張る。忘れるな。」
「は、はい。隆也さん側にいてね!!」
「いるよ。俺を信じろ。」
私は1ターンするごとに深呼吸をして、いちいち隆也さんが側にいてくれることを確認した。
何ターン目かをはじめようとした時…
「ヒャッホー!!」
上から声が聞こえた。
見上げると、ふざけた若者たちが斜面の両端でもたついている初心者たちに雪の飛沫をわざとかけながら下りて来る。
みんな顔を背け、中には転んでしまった人もいた。
その集団が私の方に向かってくる!!
ニヤついた集団が私のすぐ近くでターン。私は怖くて顔を背けて飛沫を覚悟した。
……こない。
目を開けると、隆也さんが立っていた。
私を庇って?飛沫を防いでくれた?……
「隆也さん…」
隆也さんは彼らの行動を注視している。
私たちの少し下にいた女の子が滑りはじめた。
若者が慌てる。
「危な…!!」
私が叫んだ時には、隆也さんはもう、全力で子供に向かっていた。
危機一髪。
若者と子供が衝突する寸前、隆也さんは女の子を抱きかかえて滑り抜けた。
「…っぶねーなっ!!」
若者は止まろうともせずに言い捨てて行ってしまった。
「マユっ!!」
女の子の父親が慌てて隆也さんに近付く。
女の子は衝突しそうになった事よりも、隆也さんにいきなり抱き上げられた事に驚いて泣きながら父親の腕の中に戻って行った。
父親が何度も頭を下げて子供の頭を撫でる。
隆也さんは子供の無事を確認すると、微笑んで頭を撫でて斜面を上って来た。
「隆也さん…」
私はほっとして全てを忘れてしまったから……
「あっ!!」
スキーが滑り出した。
「や!!」
「瑞穂!!」
隆也さんの腕が横から伸びてきて、私を抑えてくれた。
止まった……
私は隆也さんにしがみついた。
困った時に現れる、正義の味方……
「大丈夫か?」
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
「いいよ。謝るな。」
「隆也さん…楯になってくれたんですね。」
「………」
「ありがとう…」
「まだやれるか?それとももうやめる?」
私は顔を上げた。隆也さんと真っ直ぐに
目が合う。
澄んだ瞳にドキリとする。
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