第5章

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…心臓がドキドキして、怖い… 超上級者コースと言われるだけに、滑っている人がいない。 誰かとぶつかる危険がなくていいけど… そんな静かなコースから…… 「ヒャッホー!!」 と叫び声が響き、若者が滑って来た。 「……まぁまぁ…かな。」 健太郎さんが私の肩に手を置いたまま呑気に言う。 私は彼を振り返ってみたり、両手を組んだりほどいたり…… 若者がゴールして間もなく…… 隆也さんが来た。 しかも彼は現れると同時に大きなジャンプをしてみせた。 オリンピックで見るような、後方宙返りで……空を飛んだ。 辺りにいた人たちから歓声が上がる。 隆也さんは…… 笑っていた。 生き生きと、心の底から…楽しそうに…… みんなを魅了する笑顔…… そして、水が沢を流れるように滑らかに下りてくる。 「な?」 健太郎さんが私の耳の近くで、静かに笑った。 「……こ、怖く…ないのかな…」 「アイツはね。生きる事に興味が無いんだ。だから恐怖が無い。」 「生きる興味が……無い?」 「そ!……イェイ!!隆也!!やりやがったな!!」 隆也さんが戻って来た。 いつの間にか増えたギャラリーから喝采が起きていた。隆也さんは小さく手を上げて応える。 健太郎さんがハイタッチで迎えた。 私は感情を抑えきれずに、涙をポロポロこぼしながら、彼の首にすがり付いた。 「隆也さん!!怖かった!!…怖かった!!」 「……ごめん。」 若者たちが呆然として、ノロノロとやって来た。 「……スイマセンでした。完敗です。」 「楽しかったよ……みんな楽しみたくて来てるんだ。嫌な想いさせんじゃねぇ。」 「はい。もうしません。」 「ん。じゃあな。」
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