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私がクレイソン家を嫁いで数年がたったころだった。
アルス国王様とお会いできる時間が
目に見えて少なくなっていったのが分かっていた。
夜も部屋にお帰りになることも少なくなり、私はお仕事がお忙しいのだと
心配だった。
国王様の側近にも、国王様の体調など様子をお聞きした。
「はい。最近、国が更に豊かになり
それに比例してお仕事が増えております。お体のほうも少し疲労が伺えます」
「そうですか。夜遅くまでお仕事なさって大変ですのね...。」
私は国王様の現状を嘆きつぶやいた。
「夜遅くまで...?」
彼は私の言葉に少し目を見開いていた。
私はいつも冷静で表情を変えない彼の見たことない顔に驚いた。
「どうなさったのですか?」
「い、いえ、王妃様が遅くまで王様をお待ちしている事実を初めて知ったものでしたから...。」
「ふふふ。わたくしも心配で...。
それより、後でわたくしの部屋に
来ていただけますか?王様にお渡ししていただきたいものが。」
「かしこまりました。王妃様。」
そして、私は彼と別れた。
彼の驚いた表情を心にくすぶらせながら私は国王様を信じ続けた。
アルス様を信じ、お慕いし、努力した。
それが無駄なことだと知ったのは
それから数日の雷がひどい時だった。
あのときほど純情な自分を呪ったことはなかったよ。
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