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取り敢えず前菜から食べ始めた。主に野菜、サラシ、生ハム、ソーセージなどの魚介類である。二皿目はプリモピアット、パスタ、リゾットを選んだ。三皿目はセコンド、ピアット。加奈子は肉料理、猛者寛は魚料理を注文した。
「美味しかった!」
加奈子と雅宏が立ち上がったとき、奥から友人夫婦がやってきて、雅宏に挨拶した。年恰好は亭主の方が三つ四つ上のようだ。腰の低くそうな好青年に見えた。
「ごめんね、ちょっと云ってみたかったの」
「何を?」
「雅宏さんとの仲」
店を出た加奈子が手を繋いで来た。
加奈子が友人にいった「恋人」を否定することは出来ない。それは加奈子の心の中のことであって、たとえ肉体的繋がりがなくても、加奈子が恋人だと思えばその通りである。まして肉体が繋がったいまは一歩進んだ愛人というのが正しい。
しかし、加奈子があえて恋人と称したのは、彼女の切ないはにかみがそう表現させたのだ。愛人といえばそこに淫靡な翳りが匂うからであろう。
雅宏は加奈子の手を強く握った。加奈子の胸中を思うと、愛おしさが増してくるのだった。
新町橋を渡りながら、目を川面に投げるとそこに朧な月が映っていた。
「月が揺れている……」
加奈子が呟いた。
「そうだな、虚ろな月だ」
中東で見ていた月は燃えるような妖しげな月だった。砂漠の向こう落ちる月は悲しみを抱いた赤児のようだった。
人はみな水の中で漂い生まれてくる。そして濁流に呑まれつつ、果てない旅路を漂って行くのかも知れない。
「明日は何番札所ですか」
加奈子が訊いた。
「十三番から十七番まで、五ヶ寺回ろうかと思っている。徳島市内の近郷だから楽と思う。明日の夜も今夜と同じホテルにするつもりだ」
そんな予定など話しているうちにホテルに着いた。新町橋から二、三分と近い。
雅宏はかなり酔っていた。部屋に入ると直ぐシャワーを浴びた。そのままベットに倒れ込むように横になった。
加奈子はバスタブに浸かっているようだ。うとうとしているうちに睡っていた。胸の辺りに加奈子の頭が乗っていた。そして手が雅宏の股間を弄っている。
酔っているから反応は鈍かった。加奈子の手の動きが少し濫妨になってきた。
(若い体だ、疲れを知らないのだろう)
そう思っているうちに力が戻るのが分かった。徐々に力が漲ってくる。
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