第1章

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月下煌めく傘下。何時もより明るく感じる月光が影を色濃く浮き上がらせ、自身を形作る影を奈落のように底知れぬ恐怖を植え付けてくる。身を掠める風は何処か余所余所しく妙な残響を引き連れて、遠くに聞こえるサイレンだけが微かな現実感をくれた。 「………なんなんだよ」 乾燥した唇がヒリヒリとする。思わず零した言葉が引っ掻いた瘡蓋から漏れる血のように溢れる。 理解の範疇外。 そう言ってしまうのは簡単だった。しかし、其れを客観的に見ていたならそれらを的確に説明できたのかもしれない。だが、当事者である自分にはそれは不可能だった。 脳が理解を拒んでいるの、自分の知識不足なのか、どちらにしろその答えは得られないだろう。 唯一言。 一言で今のこの現状を述べるのであれば…… 血。 一面に広がる血の沼地。 その上に稀崎 萩は立っていた。
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