甲子園の階段

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一段昇れば気合いが入る 今日は絶対勝つんやで 二段昇って臥薪嘗胆 こないだの借りは今日返したる 三段踏み締め思い込む 俺はホンマは勝ち男 四段五段で思い出すのは 三年前のあの試合 六段目ですれ違う奴に 優勝みたでと心中自慢し 七八九十でそいつに祝福 一緒の試合で良かったな 十一過ぎで疲れを感じ ふっと冷めゆく強運自慢 十二の段の黒ジミ目につき 黒星みたいで不吉や思い 十三思い出すのも嫌なる 前回見たあの大惨敗 十四は足取り鉛のようで 今日もああなら再起不能や 十五で合掌神様だより 頼むで今日だけは勝ってくれ 十六ずうっと楽しみにしてた 六甲おろしを歌うのを 十七十八聞こえて来るもの 一回の裏のアナウンス 十九でネクタイ外して上脱ぎ 羽織るは縦縞虎ハッピ 二十で拝める夕焼け夜空 ビールとカレーの晩餐決め込み 二十一響くは管楽太鼓 虎吉共の大合唱 二十二で社会の鬱屈忘れて 下げた頭も帽子に隠して 二十三鞄は放り投げろ 両手にメガホン気分は選手 二十四始まる夢のひと時 沸点直前爆発寸前 二十五ついに頂上へ 顔に浜風耳に声援 地鳴りはヤジか歓声か 右も左も上も下も 縦縞黄色に袖を通して 扇の上は白熱の舞台 一投一打に広がる熱気 観衆五万の一体感 一つ輪の中の充足感 胸一杯に吸い込む潮風 割れるくらいに叩いたメガホン 吐き出すように叫んだ名前 我を忘れて掲げた拳 どこの誰とも知らない となりの友人達と共に ついに来れたぞ今年も来れた この季節がまたやってきた ここがまさに俺の聖地だ ここに来るのが人生の至福だ 空切る白球に全てをぶつける 世界が興奮だけで回る 晩春の夜に 全てを委ねて 俺の居場所 今宵はただひとつ シーズン始めの阪神甲子園球場
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