無頓着

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ポニーが今朝一頭死んだ 舌が腫れて餌が食べれなくて 水を飲むのも難しくて 餓死してた ここに来てもう一年になるが これで馬が死ぬのを見るのは何頭目か 血を吐いて死んだ馬もいた 腰が悪くて業者に出された馬もいた 足が直らず転用された馬もいた 癌で枝みたいになって死んだ馬もいた 最初に馬の死に直面したときは 手を合わせたり線香を立てたり 悼んだ さほど関わりのあった馬ではなかったが 休みの次の日にいなくなっていて 悲しくて でも次第数を見るうちに 何もしなくなった 聞き流すようになった しまい話題にもならなくなった そんな自分を薄情だとも思わなかった 今日に至っては 解剖のために 固くなったポニーを 車に載せる手伝いをした 目を開けたまま人形みたく動かない 痩せた100キロ弱の馬体の 右の後ろ脚を持って 地面をすらせながら四人くらいで 運んだ どう考えたって乱雑に 手を合わせるくらいはしたが 特別な感情は何もなかった 辛うじてかわいそうだ、とくらい 運び終わって口から出たのが 「死因がわかったら教えてください」 無頓着になっていく 慣れが俺の感覚を麻痺させていく それが悪いこととも思えない いいのか、これで 問いかけてくるのは一年前の自分 仕方ないと答えられる 一年たった今の自分 無頓着になっていく その怖さくらいせめて感じたいのに
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