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杏梨は、悔しくて涙を出している。
二人はいつも甘えてばっかりで。そのくせ自分は二人には何もしてあげられていない。
悲しい気持ちは、一緒だというのに。
なのに……。
なのに……だ……。
千絵は、ぎゅっ!と、少女の体を次は強く抱き締め、
千絵「そんな事ないわよ」
そして、また優しく、笑顔で千絵は返す。
とても、温かかった。
あの時も、幼かった千絵に、こうやって強く抱き締められた。あの時もとても心が温かく感じた。辛さや悲しみが、一気に抜けた感じがした。
千絵「逆に私達が元気付けられるっての……。あんたの笑顔に、いつも助けられてるのが私達ってこと自覚がなかった?」
杏梨「えっ……?」
そんな事、微塵も思った事がなかった。
その言葉が、本当なのかどうか、疑いたいぐらいだった。
しかし、千絵の顔を見て、疑う事ができなかった。その少女もまた、小さな雫を流していたからだ。泣きぼくろのあるその少女の涙は、とても美しかった。
鹿之助「杏梨、これは本当だ。俺達の悲しみは、お前の笑顔によって救われてるんだぞ」
少年はそう言い、照れる様に笑って返す。
杏梨「鹿……君……」
涙が止まらなかった。
嬉しかったからだ。
孤独じゃないという事が分かったから。
安堵感が止まらなかった。
杏梨「うぅぅ……っ……ふぇぇぇぇぇッッ!!」
杏梨もまた、千絵を強く抱き締める。
よく見るとその二人の光景は、まるで姉妹の様だった。
千絵が姉で、杏梨が妹。
二人はそのまま、お互いの気持ちを感じ取りながら、泣きじゃくった。
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