「消失点のピエロ」あらすじ

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中学一年の高村悠太は、ある朝、電車に飛び乗り、住んでいた街を抜け出す。 昨夜は寒空の下、それまで入っていた不良グループに川に放り込まれた。 リーダーの「あの人」はその手にカッターナイフを握り締めて岸辺から見下ろしていた。 必死の思いで対岸まで泳ぎ切り、ビショ濡れで家に帰り着いたものの、久し振りに顔を合わせた兄には何も言えなかった。 そのまま家にいても「あの人」たちに殺される。 そう思い詰めた悠太は夜明けと共に家を出たのだった。 見知らぬ街へ向かう電車の中、悠太は自殺を決意する。 死後の周囲の反応に思いを馳せ、やるせなくなる。 しかし、否応なしに辿り着いた終点の街に降り立ち、近くの山で首を吊ろうと決める。 縊死の準備のため入ったコンビニ。 出迎えた店員は昨夜出会った鑑別所帰りの「あの男」によく似ていた。 首吊りに相応しいロープは見当たらず、代わりのビニールテープと遺書用にノートとボールペン、そして最後の食事として板チョコ一枚とペットボトルの緑茶を買う。 繁華街を出て入った目的の山。 偶然出会った中年男性は亡父と同じく杖を突いていた。 彼の目を逃れるようにして立ち入り禁止区域に駆け込む悠太。 辿り着いた空き地を死に場所と決め、飲み食いを終えた後、家族に充てた遺書を書き出す。 そこから蘇る、不良グループに引きずり込まれた過去。 「死にたくない」 涙する悠太。 そこに先程の中年男性と青年警官が現れる。 彼らを振り切ろうとした悠太は崖から誤って落ちる。 「まだ死にたくなかったのに」 落ちていきながら自嘲する。 数日後、奇跡的に一命を取り留めた悠太は、しかし、それまでの記憶を無くしていた。 そこに母と兄が見舞いに訪れ、自らも負傷した兄は不良グループが逮捕されたと語る。 抱き合う母子三人に医師は告げる。 「これから少しずつ、元の悠太君を取り戻していきましょう」(了)
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