世界は僕が産まれる前に終わっていた

～序章～1話 始まりの合図

夜十神 鋼一（ﾔﾄｶﾞﾐ ｺｳｲﾁ）

彼は負ける事が特別嫌いだった。

小学生のクラス対抗リレーではいつも本番一ヶ月前から走り込みを始める。

他者からは面白おかしく見えたかもしれないが子供の頃の彼はいつも本気だった。

要するに彼は何事にも勝ちたかったのだ。

そんな負けず嫌いな鋼一は何故かいつも不幸だった。

教室に行けば彼の机の上だけ雨漏りがしていたり、トイレに行けばトイレットペーパーが全部なかったり、絶対安全なはずのトラックに轢かれて三途の川を一足早く見たりと、不幸話で酒が飲めるんじゃないかというくらいである。

憧れの人物はシャーロック＝ホームズ。あの超人的な観察力と推理力には心底痺れて畏怖した。

その彼が架空の人物と知った時の絶望と同じくらい酷い出来事が彼の身に数え切れない程押し寄せてきた。

神様が運の匙加減を間違えてしまい、鋼一にだけ幸運が極端に少なくなってしまったのだろうか。