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事務室へ着くと、いきなりぽわぽわとした毛と、クリクリとした大きな目のぷくぷく太ったネズミのキャラクターが話しかけてくる。
「三島君。今日の会議の件。大丈夫かい?ニュープロジェクトのドリームシステムの件だよ。」
この男は麗奈の上司の蒲田 京介(かばた きょうすけ)。このような可愛いなりをしているが、ネズミ人間などという妙ちきりんな生物ではなく、れっきとさした人間の男性である。
ただ、麗奈が男性が苦手なため、コンタクトレンズに設定した映像システムによりこのような姿に移ってしまうのだ。
苛立たしい人間に対しても、このレンズのおかげで皮肉屋なキャラクターにしか見えず麗奈はこれまでのことに耐えてこられた。
麗奈は、この上司の方を向き、軽く頷くと、資料片手に彼に言った。
「以前提出したファイルの通りですよ。大丈夫です。私達が開発した物ですよ。」
と、自信ありげに答えた。
ネズミ男はジトリとした嫌味な目を麗奈に向けると、ボソりと
「まぁ。君はチャレンジャーだからね。」と呟いた。
麗奈はその言葉に眉を潜めた。
『チャレンジャー』これは今の時代、最幸福政治と言われる、全国民生活保障制度に基づいた法律が出来たばかりのころ、国民全体ほとんどなに不自由なく生きていける中でそれでもなお仕事に着く人々に尊敬の念を込めてつけられた言葉だ。
しかし、今ではこの言葉も『変わり者』という意味の皮肉となっている。
そう蒲田でさえ『チャレンジャー』なのだ。
だが、麗奈がこのように呼ばれるのは性別が女性であり、ほとんど素の体のまま生活していることに由来する。
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