最終章――仁

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****************** ――いったいどんな樹の花でも、   所謂真つ盛りといふ状態に達すると   あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を撒き散らすものだ。 ――それはよく廻つた独楽が完全な静止に澄むやうに、   また、音楽の上手な演奏がきまつてなにかの幻覚を伴ふやうに、   灼熱した生殖の幻覚させる後光のやうなものだ ――それは人の心を撲たずにはおかない   不思議な、生き生きとした美しさだ ――今こそ俺は、   あの桜の樹の下で酒宴をひらいている村人たちと同じ権利で、   花見の酒が呑めそうな気がする―― ****************** 梶井基次郎 「檸檬・ある心の風景」旺文社より抜粋 ******************
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