最終章――仁

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「側に居たい……逢いたいの、仁さん。  ……なんで、居ないの?  ここで抱きしめてくれないの?  側にいるって言ったじゃない。  ずっと一緒だって、言ったじゃない。  ……どうして、嘘なんかついたの。  信じたのに。信じてたのに。  いつまでも隣に居られるって、  信じてたのよ。  ……馬鹿みたいでしょ?  何の疑いもなく、信じてた。  ……信じられたのに」 「それが……  お義母さんの願いでもあったからですね」 微かな風が、桜を散らした。 耐え切れなかった花びらが数枚、 俯く柊香の艶やかな黒髪へと、 吸い込まれていく。 キレイだ。キレイだよ、柊香。 あれから。 出逢ってから、 何年も、何十年も経ったのに。 柊香は相変わらず、美しいままだ。
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