最終章――仁

21/34
前へ
/145ページ
次へ
****************** 手を伸ばす、という感覚は覚えている。 なのに―― 俺には、体がないんだよ。 伸ばすものがない。 柊香。俺のカワイイ柊香。 触れたいのに。 こんなに抱き締めたいと思ってるのに。 どうしてだろう。どうしてなんだ? 俺は、こんなにもそばにいるのに。 これ以上ないくらい、近くにいるのに。 「淋しいの。  だってもう、抱き締めてくれないもの」 ゴメン。ゴメンな、柊香。 伸ばしたって届かないが、 そもそもその手が存在しないんだ。 「抱き締めてくれないのは。  きっと。  抱き締める必要がないからですよ」 必要ない? 本当に? だったらなんで。 柊香はずっと、泣いているんだ。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

263人が本棚に入れています
本棚に追加