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「仁さん、仁さん」
俺を想って。
柊香はずっと泣いていた。
口にする俺の名前は。
彼女にとって。
「愛してる」
と、同義だから。
嬉しくて、嬉しくて。
幸せで、幸せで。
――何があんな花弁を作り
何があんな蕊(シベ)を作っているのか
俺は毛根の吸いあげる水晶のような液が
静かな行列を作って
維管束のなかを夢のようにあがってゆくのが見えるようだ――
風に舞う、桜の花びらで。
俺の血肉を与えた花弁で。
ただただ、柊香を包んでいた。
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