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俊太郎先生の名前を聞いて言葉をなくしたように思えた。
私が怪訝な顔をして見守っていると、それでもハッとした風に肩を引き上げ、また微笑んでくれる。
でもその笑顔が、さっきより硬い。
「三十階は最上階です。あがって戴くのは奥のエレベーターからになりますが、どちらにせよ、蜷川さまのご了解が必要です。失礼ですが、蜷川さまは、本日のご訪問の事はご存知で?」
……うッわぁ。
凄まじいな、億ション。
プライベート、鉄壁のガード。
でも、ここまで来て負けてならじと私も大きく首を横に堂々と振ってみせる。
内村さんが無言で眉を寄せた。ザ・困った顔という風。
良い人なんだなァと思う。
申し訳なさそうな気持ちが、顔全体に現れている。
「相沢蛍と言います。蜷川先生には、昔、とってもお世話になりました。
東京に出てくる用事があって、先生がこちらにお住まいと聞いたので、是非、その時のお礼が申しあげたくて。
お時間は取らせません。
逢って戴けるかだけでも聞いてみて戴けませんか?」
正面突破だ。
胸を張って言ってみると、内村さんは目をぱちくりさせてから、ふと、唇を引き上げて私を見直した。
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