1.俊太郎先生と「椿」

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「そうですか。滅多に蜷川さまは人とお逢いになりませんが……では、お伺いしてみましょう」  私は大きく笑顔を浮かべて、頷いてみせる。 駄目でモトモトだもの。  内村さんが手伝ってくれる、その事に今は感謝しよう。  内村さんはフロントのテーブルの上の白い電話を取り上げて、そこでしばらく話をしていた。  それからふと、驚いたように目を丸くすると、受話器を耳につけたまま、私の方をちらりと見る。  ん。何?  でも、すぐにまた目線をフロントのテーブルに落とすと、何度か頷き、とても意外そうな表情のまま、受話器を置いて、しばらく無言でいたけれど、顔をあげ、私をまっすぐ見て、口を開いた。 「ご案内いたします。蜷川さまが、お逢いになるそうです」  ……やっぱり、俊太郎先生だ! 私の事、覚えていてくれた。  俊太郎先生は変わってしまったんだとか、実は病気で、今逢っても辛いだけだとか、そういう変な話は、全部、脳裏から吹き飛んだ。  くるくる舞い踊っちゃいそうなくらい、嬉しい。 相当嬉しそうな顔をしていたんだと思う。  フロントに「館内におります」の札を出して、私の方へ歩いてきた内村さんが、可笑しそうに目を細めた。 
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