1372人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうですか。滅多に蜷川さまは人とお逢いになりませんが……では、お伺いしてみましょう」
私は大きく笑顔を浮かべて、頷いてみせる。
駄目でモトモトだもの。
内村さんが手伝ってくれる、その事に今は感謝しよう。
内村さんはフロントのテーブルの上の白い電話を取り上げて、そこでしばらく話をしていた。
それからふと、驚いたように目を丸くすると、受話器を耳につけたまま、私の方をちらりと見る。
ん。何?
でも、すぐにまた目線をフロントのテーブルに落とすと、何度か頷き、とても意外そうな表情のまま、受話器を置いて、しばらく無言でいたけれど、顔をあげ、私をまっすぐ見て、口を開いた。
「ご案内いたします。蜷川さまが、お逢いになるそうです」
……やっぱり、俊太郎先生だ!
私の事、覚えていてくれた。
俊太郎先生は変わってしまったんだとか、実は病気で、今逢っても辛いだけだとか、そういう変な話は、全部、脳裏から吹き飛んだ。
くるくる舞い踊っちゃいそうなくらい、嬉しい。
相当嬉しそうな顔をしていたんだと思う。
フロントに「館内におります」の札を出して、私の方へ歩いてきた内村さんが、可笑しそうに目を細めた。
最初のコメントを投稿しよう!