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「蛍さん。変わったお名前ですね」
「皆さんそう仰います。名前は儚げな割に、本人がこんなに元気そうなので、余計にそう思われるみたいで」
内村さんが吹き出した。
でも、それ以上話すのは失礼だと思ったのか、そこからは無言で、私の荷物をやはり代わりに持ってくれる。
そこを歩くだけでも、数分かかるエレベーターまでの二つ目のロビー、左右はやっぱり大きなガラス仕立てで、苔の生えたせせらぎと植樹された庭が見える。
「花水木。それに木蓮、向こうは……桜並木ですか?」
あんまり綺麗だからガラスの方に歩み寄って、内村さんに聞いてみる。
「お若いのに、良くご存知で。少し向こうには、皐月躑躅もまだ盛りですよ。内庭はマンションの住人の共有物ですが、皆さん、お忙しい方ばかりで……。せっかく咲いても見てもらえないまま過ぎてしまう事も多いでしょうねぇ」
さらに奥がありそうな庭の先を、背伸びして伺ってみるけど、話に出て来た皐月の赤色は判らない。
……ここ、東京ですよねぇ。
地価、どのくらいなンだろう。
これって、もしかして無茶苦茶贅沢な空間なんじゃない?
私の考えを呼んだように、内村さんがクスクス笑った。
「地下階にはスポーツジムと、プールがございますよ。マラソンコースが、そこから内庭に続いておりますので」
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