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五感を失った事がある。
高校一年の春だった。
私が行きたいとずっと言い続けていた旅行……高校合格のご褒美だった旅行。
お父さんとお母さんも、とびきり楽しみにしていた。
事故が起きたのは、その途中。
細い山道で、後ろから走ってきたトラックに追突された。私たちは山道から弾き飛ばされ、崖下に車ごと逆向きに転落した。
下半身を押しつぶされて、両親は即死たっだ。
車の中は血の匂いで一杯で。
ただ、後部シートの下に、一旦転げ落ちた私だけが、逆さにへしゃげた車中の隙間で、奇跡的に生き残っていた。
怖かったし、涙が止まらなかったのを覚えている。
崖下への救助作業は困難を極めたそうだ。
永遠に思える時間の中で、私は父母の死体と共に、いつ谷底へ落下するか判らない車の中に閉じ込められていた。
何度も夢だと思おうとした。意識が現実とそうじゃない世界を行き来した。
助け出された直後の事は覚えていない。
数日の昏睡の後、目が醒めた時の私の世界は暗黒と無音、静寂の中だったから。
見えないし、話せない。
聞こえないし、ものの匂いすら判らない。
触れても触感が判らない。
一週間以上、ただ、ベッドの上で人形のように横たわっていただけだったそう。
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