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私を徐々に光のある世界に引き戻してくれたのは、その地域では唯一の病院、蜷川(にながわ)病院の人たちだ。
医院長代行の蜷川先生は私が運ばれてきたその日から「治療費は立て替えるから十分な処置を!」と号令をだしてくれたそう。
そう大きな病院ではなかったけれど、皆にとても信頼されていた。奥地なのにリハビリ設備も充実していたし、蜷川先生の熱意に惹かれて志のあるスタッフがそろっていた。
蜷川先生は、俊太郎先生とか、若先生と呼ばれてた。
病院の大先生が蜷川先生のお父さんだったから。
大先生の姿は、見た事なかったけど。
小さい子たちは、お兄ちゃん先生、お兄ちゃん先生って、よく蜷川先生の後ろをついて廻ってたっけ。
一人っ子の上に天涯孤独になってしまった私は、それを聞くたびにちょっと羨ましかったのを覚えてる。
俊太郎先生みたいなお兄ちゃんが居たら、どんなに良かったろうって。
病院での日々を思い出すと、胸がいまだに、キュウッと熱くなる。
……とくに、リハビリ室チーフの白井さん。
徐々に五感を取戻していった二か月間。
夏前に、唯一の親戚であった母の兄とやっと連絡がついて九州に引き取られる事が決まるまでに、私はこの人の事をとても好きになっていた。
告白も何もできないままだったけれど。
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