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母の兄、相沢早雲伯父は、九州の山奥で陶芸を生業にしている変人だったけれど、とても良い人で、私はここで色々な事を覚えた。
畑を作ったり、薪を割ったり、七輪で秋刀魚を焼いたり、蜂の巣箱を作って、蜂蜜を集めたり……とおおよそ現代生活とはかけ離れそうな、サバイバルな生活だったけれど(伯父がそんな人だったから、なかなか警察からの連絡もつかなかったんだと思う。母の訃報も、私の窮状も)楽しかった。
高校どころか美大まで卒業させてもらった。得難い幸運が続いて、自分が、ここに存在している事を感じている。
でも、私はいま立っているのは東京だ。
白井さんを探すために伯父さんの家を出て来た。
もちろん、あの日の幼い恋が今でも自分の中で有効だと考えている訳じゃない。電話すらひいていない伯父の家で、白井さんとまったく連絡が取れないまま、もう7年もたってる。
でも、私はあの人に逢いたかった。
相談したい事があったから。聞いて欲しい事があったから。
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