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――…翌朝。あたしは早起きして礼拝堂を訪ねた。大きな扉をそろそろと開ける。
長椅子の最前列に座っていた神父様がバッと振り向いた。
一瞬驚いた顔をしたが、すぐにホッとしたように表情が変わった。
「……篠宮さんですか。どうしました? こんな朝早くに」
神父様は笑ってみせるが、心なしか笑顔がぎこちない。
「いえ。驚かせてしまったみたいで……」
神父様の様子も気になったが、あたしはそれよりも気になっていることを神父様に尋ねた。
「あの……愛美ちゃんっていう子、知りませんか? 昨日ここに来ていたみたいで」
神父様は少し考えた後で口を開いた。
「……いいえ。知りませんね」
愛美ちゃんは神父様のところに行かなかったのだろうか。
でも知らないと言われてしまったら、それ以上なんと聞けばいいかわからない。
「そう……ですか。じゃああたしはこれで」
「篠宮さん。昨日は放課後礼拝堂に来てくれるよう、お願いしていたと思うのですが―…」
神父様の言葉で、昨日掃除を頼まれていたことを思い出した。
どうして忘れてたんだろう。頼まれたのに。
「あー。すみません。昨日はあたし、えーっと……」
理由は確かにあったはずなのに、思い出せなかった。記憶に白いモヤがかかったようで出てこない。
神父様が心配そうにあたしを見ていたので、咄嗟に答える。
「体調が……悪くて」
神父様が眉をひそめた。
「どこか痛みは?」
あたしは慌てて手をパタパタと振って答えた。
「あー、いえ! 治りました。すみません」
神父様は気が抜けたように笑った。
「そうですか。じゃあ今日の放課後お願いしますね。最近掃除していないから」
(あれ?)
「でも礼拝堂の掃除は確か――…」
誰かがすると言っていた気がする。
「確か……別の女の子が最近、掃除すると言っていたような……」
神父様は首をかしげた。
「いいえ。そんな話は知りませんよ」
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