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「隣の席って誰かいなかった?」
あたしがそう尋ねると、前の席の愛美はぷっと吹き出した。
「やだ玲奈。隣は前から空席でしょー」
「そう、だっけ……」
「もう。玲奈は居眠りばっかりしてるから、起きてても寝ぼけちゃうんだよっ」
愛美があたしのオデコをつついた。ふふっと愛美が手を差し出して笑って言った。
「ほら。次は移動だよ。礼拝堂に行こう」
あたしは愛美の手をとった。
――…隣のぽっかりと空いた席はもう気にしないでおこう。
この教室は穴ぼこだらけ。40人分の席があるのに27人しか在籍していない。
他のクラスもだ。人数はバラバラだけどどこのクラスも半端になっている。
手を繋いで愛美と2人で教室を出た。
「―♪――♪」
ロングヘアーを揺らしながら、愛美が鼻歌を歌う。
「なんだっけ。その歌」
「わかんない。忘れちゃった」
そう言う愛美の表情はすごく明るい。
「愛美ってわかりやすいよね。神父様のお話の時はいつも上機嫌」
「……だって……1時間ずっと見てられるんだもん」
うつむいた顔。髪の隙間から覗く赤い耳。伏せられたまつ毛の下のキラキラした瞳。
可愛い、恋する女の子。
「ふうん」
「興味なさそうー。言っとくけど玲奈みたいな子の方が少数派なんだからねっ。神父様のこと好きな子の方が多いんだから」
「それってこの学園に他に若い男がいないからじゃない? 卒業したらどうでもよくなるって」
「もー! 玲奈ったら。そんなこと言わないで! 夢がない!」
「はいはい。ごめんね」
愛美の手を握りなおす。白い手。
あたしの手も白い。
真っ白な校舎。真っ白な膝下丈の制服。学校の敷地内にある寮まで真っ白。
だからこの学園では黒い服の神父様が目立つ。
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