1、消失学園

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礼拝堂に神父様の声が響く。 聖書を片手に淡々と読み上げる声。 『――…年老いた者が賢いとは限らず、年長者が正しいことを悟るとは限らない―…』 耳に入る声が徐々に意味をなさなくなっていく。ボーッとしてきて、カクン、と頭を揺らしたら愛美に肘でつつかれた。 口ぱくで「起きて」と言っている。 (律儀だなー) 別に起こしてくれなくていいのに。小声で「ありがとう」と言うと、シッといなされた。 礼拝堂を出た後、愛美は呆れたように言った。 「玲奈ったら居眠り多過ぎー。毎回じゃない?」 「興味ないからかな? 聖書にも神父様にも。あ、でも――…」 「もったいない! 一度ちゃんと聞いてみなよ。ほんとこんなカトリック系学園に入学しといて興味ないなんて」 愛美の眉間にシワがよっていた。 「じゃあ今度聞いてみようかな」 そう答えると、愛美の眉間のシワがパッと伸びた。 「うんうん。それがいいよ」 校内で流れるのは賛美歌ばかり。外出禁止。携帯電話禁止。テレビもネットも禁止。 この全寮制の学園に通う子は大きく分けて2種類に分かれる。 愛美みたいな純粋なクリスチャンか、あたしみたいに親がガチガチに厳しい家庭の子供。 「玲奈? どうしたの?」 「ううん。なんでもない」 愛美の手を繋ぎなおす。 「玲奈もったいないよー。玲奈は絶対生まれつき神様の御加護があるよ。だってそのアザ――…」 ジロっと見ると愛美が口を閉じた。 あたしは自分のアザが嫌い。 神様も嫌い。礼拝堂も嫌い。 でも――…神父様の声は嫌いじゃない。 掠れそうで掠れてない。 「天堂さん。篠宮さん」 この声。
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