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「別にその子が悪いとは言ってないさ。ただ――…」
あたしは四折りにした手紙を多々良に押し付けた。
「もうその話はやめよう。はいこれ。あたしが消えてから読んでね」
多々良は手紙をポケットに入れた。多々良は言った。
「どうして今、話を遮った?」
「別に深い意味はないけど」
礼拝堂のガラスが風でカタカタと音を立てた。
「なあ。人が消えるなんてありえないよな。ましてや記憶も消えるなんて普通じゃない」
「……なに。なにが言いたいの?」
「いや。ここはさあ――…」
「やめて!!! 聞きたくない!!」
あたしが叫ぶと、多々良は首をかしげた。
「どうして聞きたがらない?」
シンとして、窓の揺れる音だけが部屋に響いた。多々良は言った。
「1つ質問していいか?」
「なに……?」
「お前いつ男嫌いになったの? ここの幼稚舎から通ってただろ。親に送り迎えされて。いつ嫌いになるほど男と接した?」
「幼稚舎って……ここには高校しかないじゃない」
「そう“ここ”には高校しかない。でも幼稚舎もあったよ。お前はそこに通ってた」
「――…覚えてないわ。記憶が消されてるのかも」
「じゃあ質問を戻そうか。いつ、なんで男嫌いになった?」
「なんでって……」
礼拝堂の窓がガタガタと大きく揺れている。外はずいぶん風が強いみたいだ。
「理由なんて無い」
大きな音を立てて窓のガラスは砕け散った。多々良が粉々の窓を見て眉を下げた。
「落ち着けよ」
「なんであたしに落ち着けって言うの!? ガラスが割れたのとあたしは関係ないでしょ!」
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