1、消失学園

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「別にその子が悪いとは言ってないさ。ただ――…」 あたしは四折りにした手紙を多々良に押し付けた。 「もうその話はやめよう。はいこれ。あたしが消えてから読んでね」 多々良は手紙をポケットに入れた。多々良は言った。 「どうして今、話を遮った?」 「別に深い意味はないけど」 礼拝堂のガラスが風でカタカタと音を立てた。 「なあ。人が消えるなんてありえないよな。ましてや記憶も消えるなんて普通じゃない」 「……なに。なにが言いたいの?」 「いや。ここはさあ――…」 「やめて!!! 聞きたくない!!」 あたしが叫ぶと、多々良は首をかしげた。 「どうして聞きたがらない?」 シンとして、窓の揺れる音だけが部屋に響いた。多々良は言った。 「1つ質問していいか?」 「なに……?」 「お前いつ男嫌いになったの? ここの幼稚舎から通ってただろ。親に送り迎えされて。いつ嫌いになるほど男と接した?」 「幼稚舎って……ここには高校しかないじゃない」 「そう“ここ”には高校しかない。でも幼稚舎もあったよ。お前はそこに通ってた」 「――…覚えてないわ。記憶が消されてるのかも」 「じゃあ質問を戻そうか。いつ、なんで男嫌いになった?」 「なんでって……」 礼拝堂の窓がガタガタと大きく揺れている。外はずいぶん風が強いみたいだ。 「理由なんて無い」 大きな音を立てて窓のガラスは砕け散った。多々良が粉々の窓を見て眉を下げた。 「落ち着けよ」 「なんであたしに落ち着けって言うの!? ガラスが割れたのとあたしは関係ないでしょ!」
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