1、消失学園

4/39
前へ
/63ページ
次へ
「神父様!」 愛美がぱぁっと笑顔になる。声もワンオクターブ高い。普段の声の方が可愛いのに。 「お喋りもいいですが、早く移動しないと2人とも3限遅刻しちゃいますよ」 時計を見れば、もう後2分でチャイムが鳴る時間だった。 「やだ! ほんとだ! ありがとうございます神父様。行こっ玲奈」 愛美があたしの腕を引いて走り出す。 「ちょ」 腕を引かれながら後ろを振り返ると、神父様はにっこり笑って手を振っていた。指が長い手。指だけじゃない。腕も足もひょろひょろ長い。 ロリコン 心の中で罵倒した。愛美がなんで好きなのかわからない。 ――3限目の授業中。日直だったあたしは世界史の先生に「準備室から地図を取ってきて」と言われた。 1階の誰もいない廊下をゆっくりと歩く。裏庭に神父様の後ろ姿が見えた。黙って通り過ぎようとしたけど、 神父様の手から白い煙が揺れているのが見えた。 ガラリと窓を開ける。 嗅ぎ慣れない煙の匂いが私の鼻をくすぐった。 「隠れ煙草」 あたしの声で振り返った神父様は、手に持っていた煙草を地面に落とした。 「なんのことでしょう?」 煙草は靴に踏まれて隠されていた。 「別にいいですよー。見間違いかもしれないので他の人にも聞いてみます」 とかバラしちゃいそうなニュアンスを含んで言ってみたりして。 ふいに神父様の手があたしの頭に触れた。 「あまり言わないで下さいね」 そう言って神父様がにっこり笑う。 「……っ」 心臓がうるさい。 動揺を見透かしてるように神父様はにっと笑って言った。 「準備室に用事ですか? 授業中だから早く戻った方がいいですよ」 「……失礼します!」 逃げるように神父様から離れた。準備室に入ってから怒りがわきあがり、思い切り壁を蹴飛ばした。足がジンとした。 「なにあれなにあれ」 あたしは秘密を握ったはずなのに、神父様はどうしてあんな飄々とした態度だったの? まずくないの? (それに頭……!) さっき神父様の手が触れた髪を、ぐしゃぐしゃにかき乱した。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加