75人が本棚に入れています
本棚に追加
「神父様!」
愛美がぱぁっと笑顔になる。声もワンオクターブ高い。普段の声の方が可愛いのに。
「お喋りもいいですが、早く移動しないと2人とも3限遅刻しちゃいますよ」
時計を見れば、もう後2分でチャイムが鳴る時間だった。
「やだ! ほんとだ! ありがとうございます神父様。行こっ玲奈」
愛美があたしの腕を引いて走り出す。
「ちょ」
腕を引かれながら後ろを振り返ると、神父様はにっこり笑って手を振っていた。指が長い手。指だけじゃない。腕も足もひょろひょろ長い。
ロリコン
心の中で罵倒した。愛美がなんで好きなのかわからない。
――3限目の授業中。日直だったあたしは世界史の先生に「準備室から地図を取ってきて」と言われた。
1階の誰もいない廊下をゆっくりと歩く。裏庭に神父様の後ろ姿が見えた。黙って通り過ぎようとしたけど、
神父様の手から白い煙が揺れているのが見えた。
ガラリと窓を開ける。
嗅ぎ慣れない煙の匂いが私の鼻をくすぐった。
「隠れ煙草」
あたしの声で振り返った神父様は、手に持っていた煙草を地面に落とした。
「なんのことでしょう?」
煙草は靴に踏まれて隠されていた。
「別にいいですよー。見間違いかもしれないので他の人にも聞いてみます」
とかバラしちゃいそうなニュアンスを含んで言ってみたりして。
ふいに神父様の手があたしの頭に触れた。
「あまり言わないで下さいね」
そう言って神父様がにっこり笑う。
「……っ」
心臓がうるさい。
動揺を見透かしてるように神父様はにっと笑って言った。
「準備室に用事ですか? 授業中だから早く戻った方がいいですよ」
「……失礼します!」
逃げるように神父様から離れた。準備室に入ってから怒りがわきあがり、思い切り壁を蹴飛ばした。足がジンとした。
「なにあれなにあれ」
あたしは秘密を握ったはずなのに、神父様はどうしてあんな飄々とした態度だったの?
まずくないの?
(それに頭……!)
さっき神父様の手が触れた髪を、ぐしゃぐしゃにかき乱した。
最初のコメントを投稿しよう!