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2007年。
桜の舞い散る中、開け放たれた校門の前で目を真っ赤にした愛美があたしに抱きついた。
「会いに行くからねー玲奈~」
愛美は顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。彼女は卒業式の途中からずっと泣きっぱなしだった。あたしは言った。
「あたしも会いに行くよ」
「……旦那さんになる人。いい人なんだよね?」
「うん。たぶんね」
知らない。写真でしか見たことがない。親が決めたあたしの結婚相手。
大企業の社長の甥。歳はあたしの7歳上。
「幸せになってね」
不安げな愛美に笑って返した。
「もちろん」
物心ついた時から、あたしのまわりの同年代には女の子しかいなかった。
お母さんは悪い虫に汚されないようにってしきりに言ってた。
この学園にいる男の先生は、年輩の人ばかり。
「天堂さん。篠宮さん」
後ろからしゃがれた声が聞こえた。
「神父様!」
愛美がそう言って黒い服に抱きついた。しわしわの手が愛美の背中に腕を回す。
「卒業おめでとう。元気でね。篠宮さんも」
神父様があたしを見る。
「ありがとうございます。“三宅神父”」
優しいおじいちゃん神父様。神父様が言った。
「篠宮さん。あなたのことはいつも神様が守ってくれていますよ」
神父様がにっこり笑って自分の首を指さす。あたしは自分の首をさすった。
生まれつきある十字架の形のアザ。
あたしはこれがどこか誇らしかった。本当に神様に守ってもらえてるみたいで。
「はい。ありがとうございます」
あたしのお守りだった。
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