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2010年。
「玲奈。おみやげ。綺麗だろ?」
夜遅くに家の玄関で渡された、色とりどりの、名前も知らない大きな花束。
「……ありがとう正治さん。すごく嬉しい。和室に飾ってくるね」
そう笑顔でお礼を言って和室に行った。畳の上に、あたしは花束をバラバラにして広げた。生け花バサミで花の茎を整えるように切った。
ゆっくりと。
ギシギシと廊下を歩く足音が近づいてくる。
和室のふすまが開いた。
振り向かなくてもわかる。正治さんだ。
正治さんはあたしに後ろから抱きついてきた。そのまま首を舐め回される。荒い息はお酒の匂いがした。
「玲奈……いいだろ」
耳元で囁かれた声にねっとりとした声に鳥肌がたった。
「嫌!」
しまった。
そう思った時には遅かった。あたしは髪を鷲掴みにされて、顔から畳に叩きつけられた。
ブチブチと自分の髪が抜ける音が聞こえる。
そのまま上からのしかかられた。
「好きだ。愛してる……」
荒い息の気持ちの悪い声。あたしは畳の目をじっと見て、何も考えないようにした。
仰向けにさせられた時に『そんな目で見るな』と平手打ちされて口の中から血が出た。
*****
翌朝。正治さんは言った。
「今日は早く帰れそうなんだ。ケーキ買ってきてやるよ。何がいい?」
「ほんと? じゃあ……チョコケーキがいいな」
無理に笑ったら昨日殴られた時のキズが開いた。口の中が血の味になる。
「俺はいい旦那さんだよな?」
「そうだね」
このあたりで1番大きな家。立派な家具。
「愛してるよ」
そう言って抱きしめられた。言わないと殴られる。
「……あたしも……愛してる」
こんなのが愛なら知りたくなかった。
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