2、巻き戻る時間

4/6
前へ
/63ページ
次へ
2012年10月7日。 あたしは朝からバスルームに閉じ込められていた。 外から鍵をかけられて、中の鍵は外された。お腹がすいて、シャワーの水を飲んだ。 今日はあたしの誕生日。 本当なら愛美と会っているはずだった。 ――…先週。関西で就職した愛美から出張で東京に来ると連絡があった。 『ほんでね。それが10月7日だったの。玲奈の誕生日! すごくない? 運命だよ』 ところどころ関西弁の交じる友人に笑ってしまった。 『お祝いさせてよ! 旦那さまほとんど家で夜ご飯食べないんでしょ? 2人で何か美味しいものでも食べに行こうよー。ね? 』 愛美とは卒業以来会っていなかった。でもたまに電話でお互いの近況報告はし合っていた。 「……うん。ありがとう」 電話口で愛美が『やったあ』とはしゃいだ。玲奈の後ろから知らない歌が聞こえてきた。 「なんか音楽かけてる? 知らない歌」 『テレビだよー。え! 玲奈この歌知らへんの? いまどこ行っても流れてるじゃん。これだよ。―♪―♪』 愛美が電話口で歌ってみせる。 「うーんごめん。わかんないや」 この家にはテレビがない。パソコンも。携帯電話も持たせてもらっていない。 【こざかしくなるから】と禁止されていた。 「玲奈、大丈夫? 幸せ?」 「……当たり前じゃん。幸せだよ。今日正治さんが帰ってきたら言ってみるね」
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加