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2012年10月7日。
あたしは朝からバスルームに閉じ込められていた。
外から鍵をかけられて、中の鍵は外された。お腹がすいて、シャワーの水を飲んだ。
今日はあたしの誕生日。
本当なら愛美と会っているはずだった。
――…先週。関西で就職した愛美から出張で東京に来ると連絡があった。
『ほんでね。それが10月7日だったの。玲奈の誕生日! すごくない? 運命だよ』
ところどころ関西弁の交じる友人に笑ってしまった。
『お祝いさせてよ! 旦那さまほとんど家で夜ご飯食べないんでしょ? 2人で何か美味しいものでも食べに行こうよー。ね? 』
愛美とは卒業以来会っていなかった。でもたまに電話でお互いの近況報告はし合っていた。
「……うん。ありがとう」
電話口で愛美が『やったあ』とはしゃいだ。玲奈の後ろから知らない歌が聞こえてきた。
「なんか音楽かけてる? 知らない歌」
『テレビだよー。え! 玲奈この歌知らへんの? いまどこ行っても流れてるじゃん。これだよ。―♪―♪』
愛美が電話口で歌ってみせる。
「うーんごめん。わかんないや」
この家にはテレビがない。パソコンも。携帯電話も持たせてもらっていない。
【こざかしくなるから】と禁止されていた。
「玲奈、大丈夫? 幸せ?」
「……当たり前じゃん。幸せだよ。今日正治さんが帰ってきたら言ってみるね」
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