2、巻き戻る時間

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その日の夜。あたしは愛美に電話をかけさせられた。 「……ごめんね。10月7日無理だったよ」 『そっかあ。残念! じゃあその前後とかは? 3日間そっちにいるんだ』 「全部……無理かな」 電話をかけるあたしの横には正治さん。電話を切ってから正治さんは言った。 「外で男みたいに働いてる女なんてロクなもんじゃない。2度とかかわるなよ。いいか?」 黙っていたら突き飛ばされて、足を滑らせて後頭部をぶつけた。 それだけで終わったと思っていたのに。 誕生日当日、正治さんはあたしをバスルームに閉じ込めてから仕事に行った。 抜け出して遊びに行かないように、って。 服を着たまま空っぽの浴槽に寝転んだ。ため息をつくと、バスルームの中で声が反響した。 「………―♪―♪」 あんまり覚えていないけど、電話口で愛美が歌っていた歌を口ずさんだ。 こんなんだったっけ? でももう聞けない。 これから通話履歴をチェックすると言われたから。 頭を傾けると、窓の外が見えた。青い空が広がっている。小さな空。 愛美は東京のどのあたりに来てるんだろう。もしかしたらすごく近くまで来ているのかもしれない。 「会いたかったなあ……」 口に出て気付いた。自分の願い。 馬鹿だな。望むだけ無駄だってわかっていたはずなのに。 もう殴られても蹴られても、涙はでなくなった。
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