3、蘇る記憶

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「思い出した……あたしは……」 あたしはもう白い制服を着ていなかった。淡いパステルカラーのニットに膝下丈のスカート。正治さんの好みの服装。 26才に戻ったあたしを多々良が抱きしめた。 「大丈夫か?」 あたしは大人しく多々良に抱きしめられた。 「ここはあたしの妄想の中の世界?」 懐かしい校舎。教室。屋上。礼拝堂。口うるさい先生に、優しい友だち。 もうみんなとっくに卒業してそれぞれの道を進んでる。 それにもうこの学園。 去年、共学に変わったとお母さんに聞いた。時代の流れ。時代錯誤のお嬢さん学校はもう存在しない。 多々良は言った。 「――…ストレスで精神が乖離して心が戻ってるんだ。学生時代に」 「じゃあここってあたしの夢の中? それとも空想?……リアル過ぎる。まるで本当にいるみたい」 礼拝堂の木の匂いもわかる。風の音も。 多々良の体温も煙草の匂いも全て五感で感じることができる。 「夢ってそんなもんだろ。中にいるうちはわからない。でもよく見てみろよ。ちょっとずつ狂ってる」 空席だらけの教室。 いきなり消えるクラスメイト。 落ちても戻る屋上。 別人に変わった――神父様。 あたしは多々良から身体を離して聞いた。 「あなたは誰? あなただけがこの学園にいなかった。他の先生とかクラスの子はみんな本当にいた人なのに。あなただけ知らない」 この学園は若い男は1人もいなかった。 「あたしの空想の産物……?」 頬を触ると、オデコを指で弾かれた。 「ばか。違うよ。俺は部外者だ」 「部外者ってどういうこと?」 「この中で唯一のヨソ者だ。お前の一部じゃない。他の奴らはみんなお前の分身。お前の願望を体現してるやつらだ」 流行りの歌を口ずさむ。友人と恋の話で盛り上がる。屋上から飛び降りる。誰かと楽しく食事をする。綺麗な庭で花を植える。 あたしの代わりにみんな好き勝手に動き回っていた。 そして痛みを訴えて消えていった。 お腹、頭、頭、お腹、肩。 これは全部、現実のあたしの痛み。 「そっか……みんなあたしだったんだ」 消えて行った人たちも 「1人ぼっちだったんだ。あたし……」 妄想の世界。自分だけの空想世界。 全部ニセモノ。 住人はあたし1人しかいない。
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