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「思い出した……あたしは……」
あたしはもう白い制服を着ていなかった。淡いパステルカラーのニットに膝下丈のスカート。正治さんの好みの服装。
26才に戻ったあたしを多々良が抱きしめた。
「大丈夫か?」
あたしは大人しく多々良に抱きしめられた。
「ここはあたしの妄想の中の世界?」
懐かしい校舎。教室。屋上。礼拝堂。口うるさい先生に、優しい友だち。
もうみんなとっくに卒業してそれぞれの道を進んでる。
それにもうこの学園。
去年、共学に変わったとお母さんに聞いた。時代の流れ。時代錯誤のお嬢さん学校はもう存在しない。
多々良は言った。
「――…ストレスで精神が乖離して心が戻ってるんだ。学生時代に」
「じゃあここってあたしの夢の中? それとも空想?……リアル過ぎる。まるで本当にいるみたい」
礼拝堂の木の匂いもわかる。風の音も。
多々良の体温も煙草の匂いも全て五感で感じることができる。
「夢ってそんなもんだろ。中にいるうちはわからない。でもよく見てみろよ。ちょっとずつ狂ってる」
空席だらけの教室。
いきなり消えるクラスメイト。
落ちても戻る屋上。
別人に変わった――神父様。
あたしは多々良から身体を離して聞いた。
「あなたは誰? あなただけがこの学園にいなかった。他の先生とかクラスの子はみんな本当にいた人なのに。あなただけ知らない」
この学園は若い男は1人もいなかった。
「あたしの空想の産物……?」
頬を触ると、オデコを指で弾かれた。
「ばか。違うよ。俺は部外者だ」
「部外者ってどういうこと?」
「この中で唯一のヨソ者だ。お前の一部じゃない。他の奴らはみんなお前の分身。お前の願望を体現してるやつらだ」
流行りの歌を口ずさむ。友人と恋の話で盛り上がる。屋上から飛び降りる。誰かと楽しく食事をする。綺麗な庭で花を植える。
あたしの代わりにみんな好き勝手に動き回っていた。
そして痛みを訴えて消えていった。
お腹、頭、頭、お腹、肩。
これは全部、現実のあたしの痛み。
「そっか……みんなあたしだったんだ」
消えて行った人たちも
「1人ぼっちだったんだ。あたし……」
妄想の世界。自分だけの空想世界。
全部ニセモノ。
住人はあたし1人しかいない。
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