3、蘇る記憶

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「コラ」 多々良があたしの頭を軽くチョップした。 「俺は部外者だって言っただろ。お前の妄想の産物じゃないよ。実在の人間だ」 若いゲイの神父様。 「1番現実離れしてるのに……」 「どういう意味だよ」 多々良が笑う。あたしは聞いた。 「ねえ。じゃあ目が覚めても会えるってことだよね?」 「俺の気が向けばな」 「意地悪!」 多々良の腕に身を預けた。 気がつけば窓の外はまっ暗闇になっていた。 「……もうこんなに暗くなってる」 多々良は言った。 「ここでの時間の流れは普通と違う。それだけお前の精神が現実に近づいたってことだよ」 多々良の服をぎゅっと握り締めた。多々良は言った。 「起きたら戦いが始まる。お前の自由と権利をかけた戦いだ」 「なんだか壮大ね」 「当たり前だろ。人一人の人生がかかってるんだ。諦めそうになったら思い出せ」 「あなたのこと?」 「違う。自分の望みを」 あたしの望み。友だちとはしゃいだり、楽しく食事したり。 恋がしたい。恋も知らずに結婚してしまった。 「やりなおせるかな……」 溢れた涙は多々良が優しくすくってくれた。 戻りたかった。 真っ白だった学生時代に。
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