75人が本棚に入れています
本棚に追加
もう夜の7時だ。
「昼からって長くない? 薬飲んだ?」
愛美が顔をしかめて笑った。
「薬嫌いなの。胃痛くらい寝たら治ると思うしー。だから玲奈にはちょっと悪いんだけど、先に部屋戻るねー。ごめんね1人にして」
そう言って愛美は申し訳なさそうに眉を下げる。あたしは手をパタパタと振った。
「いいよいいよ! 体調悪いんだし、お大事にね。どうしても痛くなったら部屋の壁叩いて。駆けつけるから」
愛美が、ふふ、と笑った。
「なに?」
「隣の部屋が玲奈でよかった」
「まーね。寮の壁薄いから安心だよ」
物音がよく聞こえるから、もし愛美が倒れてもすぐに気づくことができる。
「そうだ。明日は玲奈1人で学校行っててね」
愛美の顔は少しニヤけていた。
「……まさか、神父様に会いに行くの? 体調悪いなら今度にしたら?」
「ううん。ときめいた方が体調よくなるかも。恋は偉大だもん。病は気からってね。じゃあね」
ひらひらと手を振って、愛美は食堂を出て行った。
ガヤガヤした中にぽつんと取り残されて、あたしは1人ため息をついた。
愛美がいないとおもしろくない。
1年の頃からずっと一緒にいた。2年も同じクラス。席も前後。寮の部屋も隣同士。
――…1人、大浴場でお風呂に入ってそれから自室に戻った。
隣の愛美の部屋はシンとして物音一つしない。
具合悪そうだったし、たぶんもう寝ているんだろう。
あたしはボフン、とベッドに突っ伏した。
髪がまだ半乾きだけどもういいや。
なんでかわからないけど、今日はすごく眠くて頭がふらつく。
眠りに落ちる前に、愛美が昼間に口ずさんでいた歌がふいに頭をよぎった。
なんの歌だったかな。賛美歌じゃない、楽しいテンポの歌。
最初のコメントを投稿しよう!