1、消失学園

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もう夜の7時だ。 「昼からって長くない? 薬飲んだ?」 愛美が顔をしかめて笑った。 「薬嫌いなの。胃痛くらい寝たら治ると思うしー。だから玲奈にはちょっと悪いんだけど、先に部屋戻るねー。ごめんね1人にして」 そう言って愛美は申し訳なさそうに眉を下げる。あたしは手をパタパタと振った。 「いいよいいよ! 体調悪いんだし、お大事にね。どうしても痛くなったら部屋の壁叩いて。駆けつけるから」 愛美が、ふふ、と笑った。 「なに?」 「隣の部屋が玲奈でよかった」 「まーね。寮の壁薄いから安心だよ」 物音がよく聞こえるから、もし愛美が倒れてもすぐに気づくことができる。 「そうだ。明日は玲奈1人で学校行っててね」 愛美の顔は少しニヤけていた。 「……まさか、神父様に会いに行くの? 体調悪いなら今度にしたら?」 「ううん。ときめいた方が体調よくなるかも。恋は偉大だもん。病は気からってね。じゃあね」 ひらひらと手を振って、愛美は食堂を出て行った。 ガヤガヤした中にぽつんと取り残されて、あたしは1人ため息をついた。 愛美がいないとおもしろくない。 1年の頃からずっと一緒にいた。2年も同じクラス。席も前後。寮の部屋も隣同士。 ――…1人、大浴場でお風呂に入ってそれから自室に戻った。 隣の愛美の部屋はシンとして物音一つしない。 具合悪そうだったし、たぶんもう寝ているんだろう。 あたしはボフン、とベッドに突っ伏した。 髪がまだ半乾きだけどもういいや。 なんでかわからないけど、今日はすごく眠くて頭がふらつく。 眠りに落ちる前に、愛美が昼間に口ずさんでいた歌がふいに頭をよぎった。 なんの歌だったかな。賛美歌じゃない、楽しいテンポの歌。
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