1、消失学園

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ノートの最初のページをめくる。 『また玲奈と一緒のクラスだねー! これからもずっと友達でいようね。とか面と向かって言うのは恥ずかしいから――…』 知らない文字。こんな丸っこいのあたしの字じゃない。しかしその次のページの文はあたしの字だった。 『愛美ともしクラスが離れても、寮の部屋は隣同士だからいつでも会えるんだけどね (笑) でも一緒で嬉しいな♪』 「――となり?」 ノートから顔を上げたあたしは、部屋の壁を見た。白い壁の向こうはシンと静まり返っている。あたしの部屋は角部屋。隣の部屋と言うと1つしかない。壁に耳をぺったりとくっつけた。何も聞こえない。 あたしは廊下に出て、隣の部屋の前に来た。少し迷った後、軽くノックを数回した。 「あの。……愛美、ちゃん?」 ノートにあった名前を呼んで見たけれど、返事はなかった。試しにドアノブをそっと握ってみた。何の抵抗もなくドアノブは回せた。軽く押すと、ギギ、と音を立ててドアが開いた。 部屋の中は空っぽだった。 ドアの横の電気をつける。そこには備え付けのベッドと飾り棚以外、何もなかった。ゴミ1つ落ちていない。 「空室。だったよねえ。ずっと」 そう。この部屋はずっと空室だった。 「悪戯かな……」 そう呟き、あたしは自分の部屋に戻った。ベッドに座ってノートをパラパラとめくっていく。一番新しいページを開いた。 『明日の朝は神父様に突撃ー。不意打ちで押しかけてタバコ目撃しちゃったらどうしよー(笑) 胸キュンな展開を期待あれ』 ノートの字を指でなぞる。 「この字もあたしじゃない」 喫煙の話は誰にも言っていないはず。なのになんでこの子は知ってるんだろう。 気味が悪くなって、ノートを床に放った。 愛美なんて子、知らない。でも妙に耳馴染みのいい名前が心に引っかかる。 あたしはまたノートを拾い上げて、最後のページを読み返した。 最後のページの日付は昨日。【愛美】という子と神父様は今朝に会っていたかもしれない。
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