プロローグ

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 アーサーは覚悟をもって死地に赴いている。  しかし、当初は定期的に撃ち込んできた敵軍の大砲も、この頃は数分に一回と思わせるぐらいに頻繁に撃ってきている。  心なしか、周囲を囲む敵軍の数が見るたびに増えているようにも感じた。 「疲れた、少し横になろう」  そう言ってアーサーはフラフラとした足取りでベッドに向かう。  陸軍中将という立派な肩書きを持つ人間がどうしたのかと思う人間がいるかも知れないが、仕方がない。彼は今回が初陣なのだ。  正確に言えば、オルトバニア軍側の多くが実戦経験のない兵士で構成されている。  間違いなく職業軍人であるが、長年戦乱に巻き込まれなかったオルトバニアには、そういった経験を持つものが絶対的に不足していた。  簡単に言えば、素人同然である。  テルシアとも数年に一度合同の軍事訓練を行うが、その練度の低さに国内外から辟易とした評価を受けた。  その最中で、今回の戦争が勃発したのだ。  1ヶ月の籠城戦を想定した訓練はおろか、籠城すらどういうものかよく知らないオルトバニア軍にとって、この1ヶ月はただひたすら援軍を待ち望むのみであった。  しかし、援軍は来ない。  要塞内は完全に気力を失っていた。 「どうしたものか」  アーサーはベッドに寝転がる。彼に残された道は二択だ。  一つはこのまま籠城をし続けること。  もう一つは敵中突破し、敵侵攻軍の足止めないしは殲滅を行うことである。  前者に関して言えば、援軍が来る可能性がないにしろ、全くこないという確証も今の所ない。  それに賭けてみるのもいいが、問題は物資が尽きかけていることだ。 「食料、武器弾薬。我々が今後籠城していくとして、あと何日で物資はそこを尽きそうだ?」  アーサーは長官室の部屋の隅に立つ士官の一人に尋ねた。 「……もって、4日だと思われます」  疲労がはっきりと顔に出ている士官は、それでもアーサーの問いに正確に答えた。 「4日……、か」  最早一刻の猶予もない。アーサーは思った。  しかし、だからと言って後者のような無謀な敵中突破を行なうべきなのだろうか?  目視だけでも敵軍は籠城軍の10倍かそれ以上の兵力を動員しており、今もなおその数を増やしている。  その上自軍は練度が絶対的に足りない。  幸運にも全滅を免れた、なんてことは万が一でも起こりそうにない。
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