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全滅すれば、この要塞は確実に敵の手に渡ってしまう。
絶対にだ。
そうなれば奴らは王国流通経路最重要都市であるルディンバルに兵を進めるだろう。
それは、王国領の4分の1を敵に蹂躙されるのと同じことを意味していた。
全滅は避けなければならない。しかし、物資はそこを尽きつつある。
どの道このままの状態であったら、自軍は全滅を迎える。
伝令は幾度となく王都に送らせたが、一向に帰ってくる気配はない。おそらく途中で敵に遭遇し、殺されているのだろう。
ならばやはり総攻撃を仕掛けるべきか?
いや、兵力差を考えればただこの要塞の陥落が早まるだけではないのか?
……いかん、思考が堂々巡りになってしまっている。
「……聖アルザ神よ。私はどうすれば良いのですか?」
アーサーは天井に向けてそう言った。もはや困った時の神頼みである。
瞬間、長官室の木製ドアが、バンという音をたてて勢い良く開かれた。
「長官! 王都より火急の知らせです!」
見ると一人の将校が肩を揺らし、右手にクシャクシャになった手紙を持って立っていた。
男性にしては非常に小柄であるため、アーサーはその将校が誰なのかすぐに分かった。
「ゲイル君か! よくこの包囲網をくぐり抜けてきたな!」
アーサーとゲイル少佐は互いに握手した。
アーサーにとっては長年親しんだ部下との再会と同時に、ようやく王都からの連絡が届いたことに安堵していた。
「……? どうしたんだ? ゲイル君」
しかし、ゲイルの顔にはそういった表情はなかった。彼は右手に持っていた手紙をアーサーに素早く差し出す。
「これに目を通してください。事態は一刻の猶予もありません」
ゲイルの声には一切の余裕が感じられない。アーサーもそれを感じ取り、彼から手紙を受け取る。
無数に折り目がついた手紙を開き、その内容を確認する。
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