プロローグ

1/5
前へ
/13ページ
次へ

プロローグ

 オルトバニア王国『フレスベルク要塞』  王国最東端に位置するその要塞は、周囲を三重の城壁で囲まれ、その壁の上には固定された12センチ砲が烈火のごとく地上に向けて咆哮している。  オルトバニア国境警備隊司令長官アーサー・バレット陸軍中将は、間髪入れず大砲を撃ち続けることを部下に命令していた。  籠城戦が始まって1ヶ月、フレスベルク要塞は、周囲を取り囲む正統ラトバニア帝国軍を前に、質・量共に風前の灯火であった。  正統ラトバニア帝国は、大陸東方を統べる強大な軍事大国にして文化先進国である。  わずか200年足らずと歴史は浅いが、世界最初の産業革命という社会の大変革を実現し、周辺諸国を手当たり次第飲み込み、属国化、もしくは傀儡化した。  大陸中央に位置するこのオルトバニア王国も、地政学的観点から度々ラトバニア軍の領土侵犯を許し、その都度外交問題の種となっていたが、直接戦火を交えるに至ったことはなかった。  オルトバニア・ラトバニア間で結ばれた『グラオ条約』という軍事的相互不干渉を定めた条約があったためである。  しかし3ヶ月前、ラトバニアは一方的にそのグラオ条約の破棄を宣言した。 次いでオルトバニアが動揺する機会すら与えず、ラトバニアはオルトバニア北東部に軍を進めた。  オルトバニア戦争が開戦した瞬間である。  王国側はフレスベルク要塞に防御を集中させ、その間に盟約国であるテルシアに援軍要請を行った。  しかし、援軍は一向に来る気配がない。  アーサーは心身共に憔悴しきっていた。  彼は最前線の司令長官として要塞に派遣された時から、自身と割り当てられた国境警備隊が捨て石となることを悟っていた。  現在の戦線において最重要拠点とされているこのフレスベルク要塞は、本土への本格侵攻を防ぎたいオルトバニア側にとって、何としても死守しなければならない要衝だ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加