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胴体と頭部の歩く者、そう言えば察しがつくと思う。丁度この近くに踏切がある、噂は知ってはいたがまさかこの学校に居たとは。
「そっ、私はテクテク」
「いや、誰だよ。つーか此所は踏切じゃないぞ、悪戯なら他所でやってくれ」
そう言うや否や、彼女は不敵に笑う。そして眼を見開き、あの幽霊特有の顔になる。
ぞくり、背筋に凍るような寒気が走る。俺は咄嗟に頭が危険信号を送っているのを感じ、口を鯉のようパクパクと開く。
やがて、自称恐怖の霊は。白くか細い手を此方に伸ばし、つーっと頬に指先が触れた。
思わず、反射的に体を仰け反らせ顔をしかめる。
長く伸びた黒髪が、肩に載り生き物のよう畝った。奇怪の何物でも無い、ただ不快でしかない。
「……酷いよ、皆私を起こそうと引っ張って。もう半身は切れかかってたのに、でも声すら出ないの。痛かった、心と全身は文字通りに引き裂かれたのよ」
聞いては駄目だ、そう脳が警告する。だが何故だが彼女に同情している自身がいた、少女は何も悪くないと正当化している。
その本意は、結局は下心なのかも知れない。単にテクテクが可愛いから、そして人としての思考。
其れに、同い年くらいに見えて自分とつい重ね合わせていた。半ば強引に、俺は言い切る。
未練を無くしてやると、その為に色々すると。
「っ、行きたい場所や。やりたい事、全部こなしてから成仏すれば良い」
「……でも私、皆に姿は見えない。だから迷惑になっちゃうと思うよ、其れでも良いの?」
彼女は、元の人としての姿に戻り。潤む眼を擦る、そして一滴の涙を溢した。
少女は数分泣き、やがて嬉々とした様子で満面の笑みを浮かべる。
やはり可愛い、長くストレートに伸びた髪は艶やかで。そしてアーモンド形の黒眼、服装は白と紺色のセーラー服。
襟元には、赤のネクタイ風なリボンが確りと結ばれている。
此が、俺と彼女の出会いだった。
――場所は変わり、駅の改札口。ホームを物珍し気に見回す彼女、何やら狼狽えながら改札口前で立ち往生していた。
俺は、そんな姿に笑いを必死に堪える。最中でテクテクはホームを行き交う人々を見送って行く、暫くし。
漸く改札口を、切符で抜けようとする。だが途端に改札口が赤く表示マークを出し、警報が鳴り響く。
何をした、そう思って彼女を見やれば。少女は首を傾げながら戸惑っている、手にはずいぶんと古く黄ばんだ切符が握られていた。
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