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「ほら、そんな古いのじゃ駅員が困るだろ?」
そう言い、手招きをすると彼女は無言のままに駆け寄って来た。
そしてズイガを手渡す、途端に面食らったような表情をして驚くテクテク。
此れは、何と訊いてきた、やはり昭和生まれなのだろう。察したので、先ずは使い方を教える。
すると、叱られた幼子のよう落ち込み出した少女。やがて俯きながら、そっと服の端を掴んできた。
そして、上目遣いに俺を見詰め。握る手に僅かだが力を込め、口を開く。
「……ごめんなさい」
素直に謝られ、逆に拍子抜けしてしまう。思わず吹き出しそうなりながら、優しく頭を撫でる。
そして感じた、冷たい感触。まるでアイスクリームを手で握り潰している、そんな感覚が襲う。
幻覚なのか、いや現実に目の前に居るのは幽霊。だが肝心の名前は、どうにかならないものか。
ふと考えながら、ホームで電車の到着を待つ。テクテクはと言えば、階段を上がっている。
俺は、自分の分のICカードを学生鞄にしまう。ズイガとは人間の頭蓋骨が描かれたマネーカードだ、長く見ると気分が悪くなる。
訳して、ズイガはずがいこつの略。
「にしても、電車来ないな?」
「はぁっ、はぁっ……うん。でも少し休めるから良かった」
彼女はそう言うと、スカートの上にホームだというのにその場で正座した。
だいぶ、体力を。いや霊力を消費している、少し休ませた方が適切だろう。
俺は周りには見えない、少女を抱き上げる。幻のようだからと言っても、やはり女の子を抱っこするのにはどうも抵抗があった。
少し、ほんの僅かにだが彼女に対し愛着が湧いた気がする。他のやつが言う、幽霊でも可愛いければ付き合いたいと思う気持ちは分からなくも無い。
何か、出来る事なら温もりも感じられたら良いのにな。
願っても叶わない、それは分かりきった事だ。諦め悪いな俺、そう自身を嘲笑う。
そんな時、ガタンゴトンッと電車が音を立てて走って来る。
「おっ、来たか。乗るぞ愛結?」
「……テクテクよ」
今、少しだけ彼女の眉がピクリと動いた。気のせいだったのだろうか、そして何故かクラスメイトの名前を口にしている。
俺のかたわれでもあった、つまりは双子の姉。気付いた時には、事故で死んだ。
道路から来た乗用車に跳ねられ、呆気なく返らぬ人となったと聞かされた。
聞かされたと言うのは、状況を見ていない自分に伝えてきた母と父の言葉だからだ。
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