第1章 俺と彼女の出会い

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「あれは、母さんに父さん?」 ――自分と瓜二つの女の子は、嬉々としながら病院から出てきた両親と楽しげに会話をし始めた。 けど、話を聴く限り彼女の言葉は少し幼い感じだ。お空に鳥が飛んでいるとか、そんな会話ばかり。 妙だった、双子だから歳は同じ筈なのに。俺は首を傾げながら建物の影に身を潜め、静かに様子を伺う。 其れに、何時も仕事で帰りが遅く家に居ない事が多い母と父がまさか騙していたなんて。 正直、悔しくなった。気付けば両親が帰った頃を見計らい、俺はかたわれの女の子に近付く。 「やぁ愛結、久しぶり」 然り気無く、けれど親しみを込めて手を振って精一杯の笑顔を作る。だがその瞬間、病院の受付に居た看護師が走って来て彼女を連れて行ってしまった。 愛結だと思わしき女の子を、ただその去って行く後ろ姿だけを呆然と視ていた。 そんな光景を見て思う、俺は過去に彼女と会えなくなる何かを起こしたに違いない。だからあんなにも周りは、あいつを隠していた。 そうと分かると、この日駅の改札口を抜けず近くで見張る事を決める。財布の中には約50000円が入っていた、早速付近のカプセルホテルに泊まる。 漸く寝床を見付け、一安心した所で病院の外部を窓から見下ろす。白く清潔感ある建造物、そして夜になり明かりの点いた病室が見えた。 (何か、俺。ストーカー紛いの事してないか?) 「はぁっ、バレなきゃ大丈夫だろ。とりあえず両親にメールしてっと……」 いや、待てよ。今まで知らされずに騙されていた、ならば少しくらい心配を掛けても平気だろう。 どうせ、大切なのは愛結の方だ。自棄気味に笑い、コンビニで買ったイチゴオレをストローで飲む。間に焼きそばパンを挟みながら、軽い夕食を済ませた。 育ち盛りには少し物足りない、だけどそんな細かい事を気にする余裕は無い。ただ知りたかった、両親が何故嘘を付いたのかを。 まさか、実は隠し子だったとか。そう考えもしたが其れは有り得ない、何故なら俺は確かに幼い頃に愛結と両親の四人で暮らしていた。 そんな、うろ覚えな嘘か真実かも分からない記憶をすがるように信じ込む。単にやはり否定したいだけ、その思いは徐々に強くなる。 「くそっ、何だって父さんも母さんも俺を騙したんだよ!」 事故で死んだと聞かされ、今までずっともう会えないんだと諦めていたのに。 なのに、親戚の奴等も自分に嘘を吐いていた。確かに見たんだ、死に顔を。
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