プロローグ

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雪の声など聞こえないとでもいうように、天はファッション雑誌に視線を落とした。 今日の天の変装テーマは、サロン系のカリスマ美容師。 レイヤードを使いこなし全体的にフェミニンに仕上げ、小物も上手く組み合わせている。 長い手足を持ち細身の天は、何を着ても自分のものにしてしまう。 そんな天の姿に呆れたようにため息を漏らした男が、まな板の上の鯛を出刃包丁でぶつ切りにしていく。 ため息の主は、ガテン系で大柄男の海人(かいと)だ。 「男の正装は特攻服だろ。女みてぇに、お洋服に金つぎ込んだって意味ねぇぞ、天」 「…………」 雑誌に夢中で反応を示さない天に、海人は呆れ顔でぶつ切りにした鯛を鍋に放り込んだ。
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