st.1 はじまり

8/10
前へ
/77ページ
次へ
配達を続けて10日。 相変わらず数に変動はありつつも、注文は途切れる事は無く入った。 種類にバリエーションもあるからだろう。 A社はスムーズに。B社では10分間嫌みをきき、お金をぶつけられそれを拾うというのが日課となった。 「あの、気にしなくていいからね。」 いつもの人が休みだったのだろう。女性社員が苦笑いで気に掛けてきた。 気にしなくていい。 それはきっと、嫌みを言われ、お金を投げつけられる行動だろう。 「ありがとうございます。」 平和にお金を手渡しされた。 やはり自分は感情が鈍っているのだろう。嫌みを言われても、こうして気遣われても、何とも思わないのだから。 会社を出て、空を見上げれば今日は晴天。 こういう空や景色は綺麗だと思う。 いや、そういうものでなければ、綺麗だと思う感情を持ち合わせていない。 「めぐみさん。」 ぼんやり空を眺めていると、女性から名前を呼ばれ振り向くと、そこには隣の住人だった。 なぜ? 疑問が頭を浮かぶが、彼女は気にせずニコッと微笑んできた。 それを見て、 あ、綺麗だな。 と、空をみた時と同じことをおもった。 「カフェで働いてるんでしょ?また会ったら教えて貰おうと思ってたの。」 「今から帰りますが、一緒に行きますか?」 「ほんと?ラッキー!」 人懐っこい人なのだろう。 そう納得しながら、楽しそうに後をついて歩く彼女を店へ案内した。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加