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沙樹は店前でウロウロと歩き、悩んでいた。
bar S&M
クラブハウスサンドが美味しいと噂を聞き、すでに常連にもなりかけていた沙樹だが、あれ以降行きづらくなっていたのだ。
「何であんな事しちゃったんだろ。でも、あの時は本当に可愛くて。あーでも、やっぱり殆ど初対面の人から犬扱いされたら嫌だよね、やっぱり。」
あの犬扱い事件から、顔を合わせずらかった。
しまは相変わらず夜になると行ってるみたいだけど。
「あら?沙樹ちゃん?」
「ひゃっ?!」
「あーごめんごめん、驚かせちゃって。」
そこには店のオーナー、忍が野菜を抱えて立っていた。
「うちに食べに来てくれての?」
「あ、はい!あ、いや、でも。」
「変な子ね、どっちなの?」
くすくす笑いながら歩く彼女は、とても格好いい女性だった。
背が高く、ブラウンの髪が太陽に輝き眩しすぎる。そして羨ましいぐらいの胸とくびれに、同じ女とは思えない自分とつい比べてしまう。
「あの、めぐみちゃん・・いつもと変わらないですか?」
「めぐみ?そうね、特に。なに?喧嘩でもした?」
「あ、いえ。そういう訳じゃ。」
ハッキリしないのが気に入らなかったのか、手を引かれずいずい店に連れて行かれた。
強引な所も素敵。
と、変なところで憧れが増してしまう。
「はーい、お客様よー。」
「あー、いらっしゃーい!沙樹ちゃん。」
ふわふわとした笑顔で出迎えてくれたのは、聡美だった。
ははは、と苦笑いして店内を見渡すが、彼女の姿は見えなかった。
ほっとしたような、残念なような。
「めぐみは?」
「ん?裏でジャガイモむいてるよ?」
「呼んで。」
「し、忍さん、本当に何でもないんです!」
「沙樹ちゃんは座って座って。」
カウンターの椅子を引かれたら、座らないわけにもいかない。
「忍さん、なんですか?」
そこへ彼女が現れて心臓がバクバクと緊張し始めたが、彼女は確実に自分を見たはずなのに、顔色1つ変えず、いらっしゃいませと頭を下げ、忍の方へ向いた。
その瞬間、何故かとても傷付いた。
「めぐみ、あんた何したの?」
低い声で彼女を責める忍に、慌てて顔をあげた。
あげて、気付いた。自分が泣いていることに。
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