st.3 隣の人

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沙樹は店前でウロウロと歩き、悩んでいた。 bar S&M クラブハウスサンドが美味しいと噂を聞き、すでに常連にもなりかけていた沙樹だが、あれ以降行きづらくなっていたのだ。 「何であんな事しちゃったんだろ。でも、あの時は本当に可愛くて。あーでも、やっぱり殆ど初対面の人から犬扱いされたら嫌だよね、やっぱり。」 あの犬扱い事件から、顔を合わせずらかった。 しまは相変わらず夜になると行ってるみたいだけど。 「あら?沙樹ちゃん?」 「ひゃっ?!」 「あーごめんごめん、驚かせちゃって。」 そこには店のオーナー、忍が野菜を抱えて立っていた。 「うちに食べに来てくれての?」 「あ、はい!あ、いや、でも。」 「変な子ね、どっちなの?」 くすくす笑いながら歩く彼女は、とても格好いい女性だった。 背が高く、ブラウンの髪が太陽に輝き眩しすぎる。そして羨ましいぐらいの胸とくびれに、同じ女とは思えない自分とつい比べてしまう。 「あの、めぐみちゃん・・いつもと変わらないですか?」 「めぐみ?そうね、特に。なに?喧嘩でもした?」 「あ、いえ。そういう訳じゃ。」 ハッキリしないのが気に入らなかったのか、手を引かれずいずい店に連れて行かれた。 強引な所も素敵。  と、変なところで憧れが増してしまう。 「はーい、お客様よー。」 「あー、いらっしゃーい!沙樹ちゃん。」 ふわふわとした笑顔で出迎えてくれたのは、聡美だった。 ははは、と苦笑いして店内を見渡すが、彼女の姿は見えなかった。 ほっとしたような、残念なような。 「めぐみは?」 「ん?裏でジャガイモむいてるよ?」 「呼んで。」 「し、忍さん、本当に何でもないんです!」 「沙樹ちゃんは座って座って。」 カウンターの椅子を引かれたら、座らないわけにもいかない。 「忍さん、なんですか?」 そこへ彼女が現れて心臓がバクバクと緊張し始めたが、彼女は確実に自分を見たはずなのに、顔色1つ変えず、いらっしゃいませと頭を下げ、忍の方へ向いた。 その瞬間、何故かとても傷付いた。 「めぐみ、あんた何したの?」 低い声で彼女を責める忍に、慌てて顔をあげた。 あげて、気付いた。自分が泣いていることに。
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