st.1 はじまり

2/10
前へ
/77ページ
次へ
8畳ほどのマンションに、段ボールが4つフローリングに置かれた。 「めぐみ、本当に荷物これでいいの?」 そう後ろから声を掛けたのは、雇い主のオーナー、忍。殺風景なこの部屋を呆れながらも見渡した。 「はい、元々荷物少ないので。ありがとうございます。」 キチンと角度を決め、頭を下げるめぐみに、ぱしんと軽くその頭をはたく忍。 「あんたって、本とくそ真面目。」 「本当に感謝してるです。保証人までなってもらって。」 そう、この部屋を借りれたのも彼女が保証人となってくれたらだった。 店の屋根裏部屋で半年ほど住み込んでいためぐみであったが、お金もたまり部屋を借りることにしたのだ。 「あぁ、それと私からのプレゼントよ。引越祝いと思って受け取りなさい。」 そう言われると、数人の業者のような人が大きな板を運び入れてきた。 そして丸い白い物体も。 手早く組み立てられたそれは、ベッドだった。丸まったものは、マットだったらしい。 「いいん、ですか?」 「床じゃなくて、ちゃんとベッドで寝なさいよ?」 「はい。ありがとうございます。」 本日2回目のお辞儀に、やれやれと忍はため息をつきながら、手を振った。 「明後日から通常出勤よ。それまで部屋らしく模様替えしなさい。」 「はい。」 忍を玄関まで送り、エレベーターに乗るまで見送った。 そして、ベッドのみ立派に構えられた部屋を見渡し、深呼吸した。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加