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「こんなところで何をしているの?」
覗き込んできた少女は、太陽の光のせいか、眩しく微笑む。
「特に何かをしている訳じゃない」
「ここ、私の秘密の場所なんだ」
どうしてそんな所に他人が居るのか、そんな意味の含んだ訴えを口にしているにも拘わらず彼女は嫌味たらしくは無い。純粋に疑問に思っているらしい。
「気付いたらここに辿り着いていた」
ただ簡潔にそう言うと、少女は嬉しそうに「そっか」と小さく反芻する。
「それじゃあ、これからは私達二人の秘密の場所だね」
それから、毎日のように彼女と会った。
「いつもここに居るのか?」
少し経ったある日、そう質問すると、珍しく表情を曇らせた彼女は「うん……ここにしか居場所は無いんだ……」と、膝に顔を埋めて遠く見つめたものの、直ぐに笑って誤魔化した。
「貴方こそ、どうしていつもここに来るの?」
「一緒だ。居場所が無かった」
「そうだね、私と一緒だ」
その日からお互いの事を少しずつではあるが、話をするようになった。
「そういえば私達毎日会ってるのに名前も知らないね。貴方、名前は?」
「……名前と呼べるものは無い」
「うーん……あっ、それじゃあ貴方の名前はアントスね!」
「アントス……?」
「そう! 花って意味なんだ! 私の名前はフロースって言うんだけど、これも意味は同じで花。……まあ、これはお母さんから聞いて知った事なんだけど、二つとも昔から伝わる言葉らしくって、生まれたの私が男の子だったら付けるつもりだった名前なの。どうかな?!」
「構わない」
「良かった!」
彼女はまるで自分の事のように笑う。不思議だ。
気付いたら一面に広がる花化粧は更に美しさを増していた。
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