花畑

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「ねぇ、今更だけど貴方変わってるよね」 「そうだろうか」 「うん、見た目とかさ。……ねぇ、アントス、もしも私が――ううん、やっぱ何でもない」  そう彼女が口にした日から、毎日来ていた筈の彼女が此処へ来る頻度は落ち、来ても顔色は悪く、見るからに衰弱していた。  何があったのか問い掛けても、何でもないと力無く笑う彼女は、「大丈夫」と答える。  そして数日、彼女と全く会わない日が続いた。  次に彼女に会った時、彼女は座ることさえも儘ならない状態で、花弁が散り始めた花々の上に仰向けに寝転び、空を見ながら泣いていた。 「ねぇアントス……生きる意味って何なのかな? ごめん、そうじゃなくって……私が生きてきた意味って何なのかな? ……お父さんとお母さんの為になるからって、ちょっとの間だけだからって言われたのに……私もうお父さんとお母さんに会えそうに無いよ……」  初めてこんなにも取り乱しているフロースを見た。今までずっと気丈に振る舞っていた彼女の中の何かが確実に崩れ落ちていた。 「……私、聞いちゃったんだ。お父さんとお母さん……ううん、それだけじゃなくって、皆、死んじゃったんだってさ。ずっと堪えていたら皆が幸福になるって信じてたのに…………ねぇ、教えてよアントス……私、何の為に生きているの……? 私の居場所は何処なの? 私、今まで何の為に頑張ってきたの……? ……もう、無理だよ」  秘密の場所なんてものは無くなった。戦火に呑まれて、彼女が生きてきた意味も、彼女が居た場所も、軌跡も……何もかもが消える。  残されたのは憎しみと、傷跡と、悲しみと、屍だけだった。
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