あれから

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 あの日からもう随分と時間が経ってしまった気がする。  少し寒くて、雪も降っていたあの日、最後に笑顔を見せた彼は無事逃げる事が出来たのだろうか。  彼と出会ってから色々な事があった。僕が僕として生きる勇気をくれたのは彼だった。友人と呼べる人達と結び付けて、切っ掛けもくれた。  でも、そんな矢先に色々な物が奪われて。  こんな僕に対して何年も変わらず接してくれていた人も、お礼なんて言う暇も無く奪われてしまった。  もうこれ以上、自分の力が及ばないせいで何かを失うのはうんざりなんだ。  だから僕らは、強くなる事を決意した。    ‡  ‡  ‡ 「それでは頼んだよ」 「……はい」  雲一つ無い空の元、強い日射しを浴びた風は、窓を通って大きな机に肘を突く麗人の、紫色の長い髪を揺らす。 「どうした?」 「……本当に僕らで良かったのか、わからないんです。そもそも、“僕ら”であった必要があったのかも」 「以前も言っただろう。貴様だけでは駄目で、貴様が居なくても駄目で、貴様達でないと駄目だとも。貴様はあの子を守りたいのだろう? 推薦枠に彼女を選んだのも、彼女の為で、生徒達の為でもある」 「それはわかっています……わかっていますが」 「このハルバティリス王国は他国とは違って少々特殊なのは理解しているな? 故に唯一魔法を教える我が校へは様々な人種が集まる。庶民的な者も居れば、貴様のように貴族出身の者だって居る。そんな所で生徒会長を務めるというのは、少々荒っぽい言い方になってしまうが、様々な思想を持つ人間を黙らせる為の実力と、悲しい事にそれなりの家柄も必要だ」  そこまで言うと、一度「だろう?」と彼女は僕に確認を取り、僕はそれに「心得ています」と短く返す。 「残念ながら、現生徒会長は貴様らのように貴族出身では無い。かと言って実力の無い者に任せては生徒会長が嘗められてしまう。……プラナスであれば、もしかしたらそうする必要はなかったのかもしれないが」  プラナス=カーミリア。高等部一年時にして、王都魔術学院歴代最強の実力との呼び声が高かった少女。そんな彼女であれば、例え家柄が無くとも、誰であろうと有無を言わせたりはしなかっただろう。
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