あれから

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 まず一番影響が大きかったのは、その隣国へ留学した生徒が居たことだった。  留学生がいること自体は別に珍しくは無い。むしろ、今年の王都魔術学院で留学生を出さない方が珍しい位だ。  魔闘祭というのは、生徒達の力を測るためのものや、生徒達の目標として思われがちだが、実際は他国との交流を行うことの方が本来の目的である。  これはお互いの手の内、つまりは戦力を披露し合い、そうすることによってお互いに信頼の意思表示をし合っているようなものだ。……まあ、武力を誇示して抑止力や外交を有利に行うという意味合いも少なからず含まれているのも否定は出来ないが、概ね信頼を得るためのものと言っても良いだろう。  しかし年によっては国同士の勢力図が偏ってしまう事も少なくはない。  そこで行われるのが留学だ。  優秀な生徒が多くいる国は他国に留学生を出さなければならない。別に出さなくても構わないのだが、その場合他国に白い目で見られるのは必至である。  留学先は基本的に生徒の意思に任せられており、何処を選択するのかは自由であるが、留学生を何人も受け入れた結果、依然勢力図で抜きん出ている場合、その国は追加で留学生を出さなくてはならない。  こう言ってしまうと、留学生を受け入れるのはあまり良いようには聞こえないが、留学生は留学先の国の代表として魔闘祭に参加出来るので、魔闘祭を行事として見れば戦力の向上を望める為、悪い事ばかりではない。生徒自身も他国の代表として出るというのは、色々な国の、様々な人間へ対してのアピールとなるので、留学した以上、代表を狙うのが普通だ。  そして何より、留学生というのは留学元にとっては貴重な戦力である。それを受け入れるということは、その国に対しての人質を得る事が出来るという事でもあるのである。  そんな留学制度の元、我が校から留学したのはティアナ=ハーケンベルグという三年生の女子生徒だ。  ハーケンベルグ家の御令嬢である彼女は、歴代唯一、たった一人で生徒の仕事を行っていた人物で、前生徒会長に当たる人物である。彼女はそれを行えるだけの器量、有無を言わせないだけの実力と家柄を持っていた。  彼女は去年だけでなく、一昨年から、二年間生徒会長を務めていたのだが、今年度に入り、急遽留学すると言い出した結果、こうして皺寄せがやって来たのである。
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