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「なっち……」
後ろからいのりが俺を呼ぶ声がした。
くすぐったい名前で呼ぶいのりの声に、俺の胸は強く鼓動したようだった。
言った通り戻ってきたいのりに、今度こそ言わなければならないことがある。わかっていたが、それでもいのりの顔を見ることを躊躇うほどの感情が、俺の身体を震わせた。
それでも、伝えたい本当の気持ちがあるから――俺はいのりへと振り返った。
「はい、これ」
俺の目の前にあったのは、小さな雪だるまだった。いのりの手のひらを赤く染めた雪だるまと目があった。
「今度は、とけないから……チョコレート。もう、二月十四日になったんだよ。今度は、ちゃんと受け取ってくれる……?」
震えている俺よりも、もっと震えているいのりの手のひらと声。
顔も上げられないで、そう言ってきたいのりの姿に、あの日の光景が重なるのは簡単なことだった。
最初から決めていた。もう、あの日のように逃げ出したりしないと。伝えたいことを伝えるのだと。そのために、俺はいのりのもとへ帰ってきたのだ。
俺は星の形をした痣のあるいのりの手を取ると、そのまま彼女を抱きしめた。
「いのり……いのり、本当は俺……」
「なっち。もう一度会えてよかった。ずっと会いたかったから」
いのりの言葉に俺も頷く。
彼女は俺の腕の中で震えながら、そっとしがみついてくる。
「あの飛行機に乗っていたのは、なっちじゃないって、信じたかった。本当は私もすぐに行きたかったけど、でももう、なっちの家の人と誰も連絡取れなかったから……だから私、こうしてなっちがまた帰ってきてくれたのが嬉しい……」
「俺もだ……俺も、もう一度いのりと会いたかった」
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